あくび指南所 2号店

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黒い太陽と赤いカニ 椹木野衣 中央公論新社

岡本太郎芸術の評論。
岡本太郎の墓には,自作の彫刻「午後の日」が使われている。子供?が頬杖をついてニコニコしている像である。しかし,著者はこの彫刻の目が空虚な大きな穴であることに注目する。岡本太郎の作品によく見られるこの「穴」は,見る者になんとはなしに不吉な印象を与える。その穴から覗く空虚さ,虚無感こそが,太郎の生涯を貫いた「否(ノン)!」の叫びそのものだと著者は感じている。
この本では,フランス時代から戦後の日本での活動と,時代を追って,太郎の芸術を語っているが,その中でも大阪万博についての記述は詳しい。未来への希望を体現した大阪万博の中に闖入した原初の混沌が岡本太郎であった。岡本太郎は,万博に満ち溢れた合理的で未来主義的な思考に,太陽の塔という「ベラボーなもの」で対決した。30年以上の歳月が経って,未来主義的なものは月日の流れの前に色褪せていった。「ベラボーなもの」は今も変わらずにそそり立ち人々の目を惹き付けている。対決の結果は明らかだ。