あくび指南所 2号店

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「人見絹枝 〜炎のスプリンター」日本図書センター

日本女子陸上の先駆者、人見絹枝の自伝。
日本女子初のオリンピックメダリスト(アムステルダムオリンピック 陸上女子800m。日本女子陸上が次にメダルを取るのは、64年後の有森まで待たなければならなかった)、第2回万国女子オリンピック個人優勝、公認世界記録4種類(100m、200m、走幅跳、三種競技)、という世界に伍しての華々しい実績。まさにスーパーアスリートである。
しかし、その彼女が背負わなければならなかった重荷を知ると泣けてくる。
当時の日本で、若い女性が太ももをあらわに運動をするということは、女性の規範に反することだった。人見は、陸上のみならず女性スポーツ振興のために、世間の無理解や中傷に戦い、後輩の強化に気をもみ、選手団の遠征費用の捻出までもしなければならなかった。
そして、戦前という時代ではやむをえないものだが、海外での試合では「日本のために」という強烈なプレッシャーの下に戦わなければならなかった。文字通り、死を賭しての遠征、メダルを取らなければ、アムステルダムの運河に身を投げようとまで思いつめた。その重圧たるや、いまからは想像もつかない。


オリンピックから3年後、人見は肺炎のため24歳の若さで死亡。女子スポーツのために戦った彼女の激烈な戦死であったといえよう。彼女が健康に年を重ねていれば、日本女子スポーツのためにどれほどの貢献をしてくれただろうかと思うと、その早い死が悔やまれる。


この本を読むと、人見の文章力にも驚かされる。新聞記者であっただけに文章力は確かで、臨場感にあふれる読み物としても、当時の練習法や競技の実際を伝える記録としても優れている。

人見絹枝
人見絹枝
posted with 簡単リンクくん at 2006. 5.17
人見 絹枝著 / 織田 幹雄編 / 戸田 純編
日本図書センター (1997.6)
ISBN : 4820542737
価格 : \1,890
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